こんにちは、ラテラCTOの荒磯恒久です。
哲学をはじめとして、ヨーロッパの文化の源を作った古代ギリシャで使われていた言語はどんなものか、全くの素人向けの本(注1)があったので読んでみました。本の最初の方に “σπεύδε βραδέως”(スぺウデ ブラデオース:急げ ゆっくりと)という格言が載っていて、スぺウデの音が英語のスピードに少々似ていて、意味も「急げ」という事で覚えてしまいました。下の写真はパルテノン神殿。格言はこの時代のものです
「ゆっくり急げ」はローマ帝国の初代皇帝アウグストゥス(写真、注2)の好きな言葉 “Festina lente”(フェスティナ レンテ:急げ ゆっくりと)から出ていると言われます。Festina lenteはラテン語ですが、この言葉の元はギリシャ語の格言にあったのです。アウグストゥスの頃のローマは文化を歴史的先進国のギリシャから取り入れていて、貴族の子弟は小さいときから学校でギリシャ語を学び、教養ある人々は皆ギリシャ語を理解していたようです。
この言葉は日本語で「急がば回れ」と訳されることがしばしばあります。「急がば回れ」は室町時代に語源があるとのことです。連歌師、宗長の歌とされる「もののふの矢橋の船は早けれど急がば回れ瀬田の永橋」がそれで、琵琶湖を渡るとき東海道53次の今の草津市矢橋港から大津市石場港まで船で行く方が、瀬田の唐橋経由より近道であることが背景にありました。しかし、琵琶湖の船による横断は比叡おろし(突風)があり危険な航路でもあったのです。このように日本の「急がば回れ」には危険を回避するという意味があります。写真は歌川広重の近江八景にある瀬田の唐橋の風景です。長い橋ですね。いかにも船の方が早そうです。
ではギリシャ、ローマの「ゆっくり急げ」には、このような危険を回避するという意味はあるのでしょうか。
アウグストゥスが言った意味は「スエトニウスの『皇帝伝』によれば、アウグストゥスは軍事的な指導者が性急さを持つことを嫌い、次の3つの格言を愛好していた。すなわち「ゆっくり急げ」「大胆な指揮官よりは慎重な指揮官のほうがましだ」「立派にできたのであれば、それは十分早くできたことになる」で、最初の2つはギリシャ語、3つめはラテン語であった」という事で、「ゆっくり急げ」には危険を回避するという意味合いはないようです。(出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%86%E3%81%A3%E3%81%8F%E3%82%8A%E6%80%A5%E3%81%92#cite_note-:0-1)
ギリシャ、ローマ、そしてその後のヨーロッパ諸語でも、もっぱら成功するための方法としての意味を持っているようですね。
外国語を理解するには辞書に載っていることをそのまま鵜呑みにしてはいけないこともあるのです。難しいものだと改めて感じました。語学の勉強も、唐突ですが植物の成長も「ゆっくり急げ」ですね。
注1:古典ギリシャ語のしくみ≪新版≫、植田かおり著、白水社(東京)、2014年
注2:アウグストゥスはユリウス カエサル=ジュリアス シーザーの大甥。8月を意味するAugstが彼の名に由来することはあまりにも有名。ちなみに7月Julyはジュリアス シーザーに由来する。
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